診療案内
代表的な疾患
Disease
高血圧
高血圧の基準は、病院や健診時は140/90mmHg以上(140mmHg以上または90mmHg以上)、家庭では135/85mmHg以上(135mmHg以上または85mmHg以上)です。
また年齢や持病によって降圧目標が以下のように異なります。
若年、中年、前期高齢者患者 135/85mmHg未満
後期高齢者患者145/85mmHg未満(目安)
糖尿病患者、CKD患者(蛋白尿陽性)125/75mmHg未満
脳血管障害患者 冠動脈疾患患者135/85mmHg未満
このように細かく目標が分けられています。
ですから実際に高血圧の患者さんをみるときは年齢や持病などその方の背景をチェックすることになります。
健診で高血圧を指摘されて、持病がなければ先ずは減塩、肥満があれば減量、アルコールが多ければ節酒、喫煙者なら禁煙など生活習慣を指導しこの際、血圧計の購入を勧め、血圧手帳に記録して頂いて様子を見ます。
数週間~数か月様子をみて努力したものの、或いは生活習慣の一部が変えられず血圧が下がらない場合には降圧薬を開始します。
また糖尿病やCKD、脳血管や冠動脈疾患の既往がある場合は来院時から降圧薬を勧めることもあります。
いずれにしても人それぞれです。
降圧薬に抵抗のある人もない人もおりその患者さんと話しながら投薬をするか決めていきます。
薬を始めるともう止められない?とよく聞かれます。
上述手順で投薬を開始するので継続することが多いのは確かです。
しかし、中止可能な方もおられます。
降圧薬を服用の下でしっかり降圧できていることと、生活習慣をしっかり改善できていることが条件です。
特に肥満の方は4~5kg減量して血圧が正常化することも多いです。
私自身5kg減量して降圧薬が不要になりました。
降圧薬には大きく分けて4種類あります。
1.カルシウム拮抗薬 2.ARB 3.βブロッカー 4.利尿薬
1.カルシウム拮抗薬
ファーストチョイスといっていいくらい使用頻度が高いです。
確かな降圧作用が得られ、副作用もほとんどありません。
血管は平滑筋でできており平滑筋の細胞にカルシウムチャンネルというカルシウムの流入路があります。
この平滑筋細胞にカルシウムが流入することによって血管が収縮し血圧が上がります。
カルシウム拮抗薬はカルシウムの流入をブロックすることにより血管を弛緩させ血圧を下げます。
カルシウムチャンネルにはL型 (long lasting)、T型 (transient)、N型 (neural)、があります。
注目すべきは血管平滑筋に対する作用と腎糸球体の輸入細動脈と輸出細動脈に対する作用です。
腎糸球体において、輸入細動脈から糸球体に血液が入りそこで血液が濾過され尿ができますが、尿が濾過された後の血液は輸出細動脈から出ていきます。
この糸球体内の圧が高くなると腎臓に負担となり腎機能が障害されます。
つまり、輸入細動脈だけ拡張させると内圧が高くなり、輸出細動脈を拡張させると内圧が下がります。
輸出細動脈を拡張させることは腎臓にとてもいいことになります。
L型をブロックすると血管平滑筋に働き血圧を下げます。
また輸入細動脈を拡張させます。
T型をブロックすると輸入細動脈と輸出細動脈のいずれも拡張させます。
N型をブロックすると輸出細動脈を拡張させます。
L型だけブロックすると腎臓の負担になり、T型、N型をブロックすると腎臓の保護につながります。
臨床で使用されるカルシウム拮抗薬は全てL型はブロックします。
T型、またはN型ブロック作用を合わせ持つカルシウム拮抗薬は腎臓に良いということになります。
しかし、L型だけをブロックするカルシウム拮抗薬の方が降圧作用(血管平滑筋に対する作用)が強く、T型、N型ブロックを併せ持つカルシウム拮抗薬は降圧作用が弱いです。
うまく使分ける必要があります。
カルシウム拮抗薬には各社から実に多くの薬が発売されていますが使用頻度が高い薬を列記します。
(ア)アムロジピン(ノルバスク)
降圧薬の中でも最も使用頻度が高いです。
・L型のみ作用
・反射性の心拍数↑、交感神経↑が少ない
・狭心症にも有用だが,単剤では用いられない。※冠攣縮には使えない
・ユニシア(ARBとの合剤)など、合剤としてよく用いられる。
(イ)ニフェジピン(アダラート)
・L型のみ作用。血管選択性高く、降圧作用強い。冠攣縮も予防。
血圧高めの異形狭心症に使える
・糸球体高血圧のある腎臓には負担となる
・浮腫が生じうる
最近はもっぱら効果の持続時間の長いアダラートCRが使用される。
(ウ)ベニジピン(コニール)
・L、T、N型に作用。
降圧作用は弱いが、冠攣縮予防と腎保護作用あり
冠攣縮狭心症や腎障害あるときなど
(エ)シルニジピン(アテレック)
・L、N型に作用。
輸出細動脈拡張による腎保護作用があり
降圧効果はやや弱めだが腎機能障害ある患者に使いやすい
副作用について
もっとも頻用されるアムロジピンについてお話します。
主な副作用は歯肉肥厚とむくみの2つです。
歯肉肥厚は全てのカルシウム拮抗薬に可能性はありアムロジピンが特に高いわけではありません。
1%以下との報告があります。
歯肉増殖の原因はよくわかっていませんが、カルシウム拮抗薬によって活性化された歯肉中の線維芽細胞が、コラーゲンを多量に産生することと関連があるようです。
とはいえアムロジピンでもほとんど歯肉肥厚は起こしません。
足のむくみは歯肉肥厚より頻度が高くこれは用量依存性です。
通常アムロジピンは5mgで開始し十分な降圧が得られない場合、他の種類の降圧薬を併用しますが、それでも十分な降圧が得られなければアムロジピンを10mgに増量することがあります。
アムロジピンが10mgとなると下腿に浮腫が出現することがあります。
そのような場合利尿剤の併用を考慮します。
例えばアムロジピン5mgで効果不十分であればARBを併用(アムロジピン5mgとARBの合剤を使用)しさらに効果不十分な場合アムロジピンを10mgに増量(アムロジピン10mgとARBの合剤を使用)します。
そこで浮腫が出た場合アムロジピンを5mgへ減量し、ARBと利尿剤の合剤を併用します。
その他血管拡張薬ですから頭痛や動悸といった副作用はありますが、アムロジピンはその程度は強くなく、あっても徐々に慣れると思います。
2.ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
アンジオテンシンⅡは血管を収縮させるためその受容体をブロックすることにより血圧を下げます。
ARBだけでは降圧作用は弱くカルシウム拮抗薬と併用することがあります。
血圧がそれほど高くなくても糖尿病性腎症や心不全、心肥大を伴っている場合、ARB単独で使用することもあります。
アンジオテンシンIIは腎糸球体の輸入・輸出細動脈の両方を収縮させますが、輸出細動脈の方を収縮させる作用がより強いので、ACE阻害薬、ARBを投与することにより輸出細動脈の方がより拡張し、糸球体内圧の上昇が抑えられ、腎障害の進行を抑えます。
ARBの降圧効果はマイルドでどれを使用するかのこだわりはあまりありません。
以下のものがあります。
・アジルサルタン(アジルバ)
・オルメサルタン(オルメテック)
・テルミサルタン(ミカルディス)
・イルベサルタン(アバプロ/イルベタン)
・カンデサルタン(ブロプレス)
・ロサルタン(ニューロタン)
いずれもアムロジピンとの合剤で使用することが多いです。
(オルメテックはカルブロックとの合剤になります)
3.βブロッカー
交感神経が緊張している状態の高血圧に使用します。
交感神経が緊張している状態とは
アドレナリンがβ1 受容体に結合することによりG蛋白がアデニールサイクラーゼを活性化しサイクリックAMPができます。
サイクリックAMPがカルシウムチャネルを開き、血中から細胞内にカルシウムを流入することにより心臓の収縮が増したり、心拍数が速くなったりします。
βブロッカーはこのβ1受容体をブロックすることで心臓の収縮や心拍数を抑制します。
βブロッカーもいくつも種類があるのですが、主に使用されるのはビソプロロール (メインテート)とカルベジロール (アーチスト)だけです。
ビソプロロールはβ1選択性という特性があり、心拍数を抑制する力が強いです。
アーチストも心拍数を下げますがメインテートほどではありません。
実はいずれも血圧を下げる作用はそれほど強くはありません。
どのようなときに使用するのでしょう。
常に交感神経緊張状態の方
自律神経失調症というには少し大げさですが、それに近い状態で動悸を常に感じておられる方は少なくありません。比較的若い方が多いです。
そのような場合、必ずしも血圧は高くないのですが、メインテートを使用すると心拍数が正常化し(100近くから60~70程度に)、精神的にも安定し、とても有効です。
心不全
心不全状態においては交感神経が活性化されていて、心拍数と心収縮力を上げようとしています。
しかし心臓は疲れていて鞭を打たれて無理を強いられているようなものです。
このようなときに心拍数が早ければメインテート、それほど早くなければアーチストを使用すると交感神経が高ぶっている悪循環を断ち切り心不全が改善することが期待できます。
不整脈
頻脈性心房細動に対する心拍数のコントロールのためにメインテートは第一選択で使用します。
また交感神経緊張状態における心室性期外収縮などの不整脈にもメインテートやアーチストは有効です。
4.利尿薬
ほぼARBとの併用で(ARBとの合剤として)使用します。
中年以降の女性に多い特発性浮腫(原因が特にない下腿のむくみ)に伴う高血圧にも使用し、むくみと血圧が改善します。
心不全、腎臓病に伴う浮腫を合併している時などにも使用します。
・エカード(利尿薬とブロプレスの合剤)
・プレミネント(利尿薬とニューロタンの合剤)
・ミコンビ(利尿薬とミカルディスの合剤)
・コデイオ(利尿薬とディオバンの合剤)
・イルトラ(利尿薬とイルベタンの合剤)
利尿薬の作用としてはとしてはエカードが一番マイルドです。